今回ご紹介するのは、いま世界中のウイスキーファンから注目を集める国産クラフトウイスキー「イチローズモルト」。緑豊かな埼玉県秩父市で、“Back to Tradition”をコンセプトに掲げる秩父蒸溜所で製造されています。「スコットランドの古き良きウイスキーづくりを秩父で実現しよう」という思いのもと、どのようなウイスキーづくりが行われているのでしょうか。
400樽の原酒を守った男の再出発、国産クラフトウイスキーの新星に
まずは、イチローズモルトを生んだ株式会社ベンチャーウイスキー創業までの歩みを簡単にご紹介。代表の肥土伊知郎(あくと・いちろう)さんは、江戸時代から秩父で酒造りを営む家に生まれました。2001年に経営を引き継ぎますが、業績不振により、2004年に経営権を他社に譲渡することに。譲渡先はウイスキー事業から手を引き、当時埼玉県羽生市の工場で製造・貯蔵されていた約 400 樽のウイスキーを処分することが決まります。肥土さんは原酒の廃棄を阻止するため、樽の引き取り手を探して奔走。その結果、福島県の造り酒屋の協力を得られることになり、原酒の廃棄を免れました。


西武秩父駅から車で20分ほどの、自然豊かな場所にある秩父蒸溜所。
肥土さんはベンチャーウイスキーを設立し、羽生のウイスキーを商品化しながら、新たな蒸溜所建設に向けた準備も進めていきます。2007年に秩父蒸溜所が完成し、2008年2月に操業を開始。自身の名前が入った「イチローズモルト」は、数々の国際的なウイスキー品評会で高く評価され、ジャパニーズクラフトウイスキーのパイオニアとして、現在に至るまで注目を浴び続けています。

秩父蒸溜所の事務棟には、数えきれないほどの賞状や表彰盾が並んでいました。
クラフトマンシップあふれる第一蒸溜所
秩父蒸溜所では基本的に一般公開を行っていませんが、今回アンドバー編集部は、蒸溜所や貯蔵庫を見学する貴重な機会をいただくことができました。ご案内いただいたのは、同所でブレンダーを務める奥山太郎さん。まずはウイスキーづくりの要である第一蒸溜所で、基本的な製造工程を教えていただきましょう。

秩父蒸溜所を案内していただいたブレンダーの奥山太郎さん。とても丁寧にウイスキーの製造工程を説明してくださいました。
・ミルで麦芽を粉砕
ウイスキーの原料となる大麦麦芽(モルト)を粉砕するミルルームへ。第一蒸溜所では、国産品種6,7割、残りは輸入した海外品種の麦芽を使用しています。石や小枝を手作業で取り除き、麦の状態を確認しながら麦芽をミル(粉砕機)に投入。次の工程で濾過槽として機能するように、ミルの内部にあるローラーの幅を調整しながら粉砕を行っていきます。

グリストセパレーター(写真左)でふるいにかけ、粉砕した麦芽を3分割に。
粉砕された麦芽をミルから取り出し、「グリストセパレーター」というふるいにかけ、挽きの粗さごとに「ハスク」「グリッツ」「フラワー」の3段階に分けます。この3つのバランスが次の糖化の工程に影響するポイントとなり、第1蒸溜所ではこの粉砕比率をハスク:グリッツ:フラワー=2:7:1の割合に設定しています。「1回の仕込みで使用する麦芽は400kg、粉砕にかかる時間は40分程度です」(奥山さん)
・マッシュタンで糖化
ミルルームで粉砕した麦芽をマッシュタン(糖化槽)に投入し、お湯と混ぜ合わせて糖化を行います。大麦麦芽は発芽させると自ら糖化酵素を作りだし、お湯と混ざり合うことでデンプンを糖に変化、マッシュタンの中で甘い麦のジュースが造られます。それを濾過して麦汁を取り出し、次の工程で発酵槽に投入します。

糖化を行うマッシュタン。成人男性の奥山さんと比較すると設備の大きさがわかります。
麦が持っている糖分をすべて回収するため、お湯は1回目64℃、2回目76℃、3回目96℃と、温度を変えながら計3回投入。温度によって回収できる成分が異なるため、糖分回収だけでなく酒質や味わいにも影響する大事な工程です。ちなみに、麦汁を搾ったあとの麦殻は廃棄せず、地元秩父の農家で家畜のエサや肥料として再利用されているといいます。
・木製の槽で発酵
発酵槽に麦汁と酵母を投入し、発酵させる工程です。期間は4~5日間で、最初の2日間で酵母による発酵がすすみ、その後は乳酸菌による発酵が行われます。「乳酸発酵の期間を長めにとることで、より華やかでフルーティーな香りを生み出すことができます」(奥山さん)

日本ならではのミズナラ材を使った発酵槽。

1日目の発酵槽の様子。酵母が活発に働き、麦汁の表面もモコモコと泡立っています。
世界的には、耐久性があってメンテナンスもしやすいステンレスの発酵槽が主流。しかし、秩父蒸溜所では国産のミズナラ材を使用しています。伝統的な木製の発酵槽を使用することで、麦芽由来の天然の乳酸菌が内部に棲みつき、より発酵を活発にしてくれるのだそう。また、ウイスキーの発酵槽の材料にミズナラが使用されるのは世界で初めてのことで、秩父蒸溜所の大きな特徴のひとつになっています。
・ポットスチルで蒸溜
発酵が終わった原液を、スコットランド製のポットスチルに投入して蒸溜を2回行います。それぞれ約130℃の蒸気を蒸留器内部の配管に通す「間接加熱蒸溜」という蒸溜方法です。5,6時間かけて「ウォッシュスチル」で1回目の蒸溜を行い、ローワインと呼ばれる液体を回収。そのまま「スピリッツスチル」に投入して2回目の蒸溜を行います。

第一蒸溜所のポットスチル。左側が1回目の蒸溜を行う「ウォッシュスチル」、右側が2回目の蒸溜を行う「スピリッツスチル」。
2回目の蒸溜の際に、最初に留出「ヘッド」、真ん中の「ハート」、最後に留出される「テール」の3つに分割。真ん中のハートだけを他の2つと分けて回収する「ミドルカット」を行います。。取り除いたヘッドとテールはいずれも熟成には使用しませんが、ふたたびポットスチルに入れてローワインと混ぜ合わせて再留に再利用することで、味わいに深みが出ます。樽詰めをして熟成させ、蒸溜所内で瓶詰め。イチローズモルトを待つ人たちのもとへ出荷されていきます。

「蒸溜液のヘッド・ハート・テールの違いは官能評価で判断。1分の違いで香りに絶妙な変化が生まれますよ」(奥山さん)
“伝統的な製法×量産”を実現する第二蒸溜所
手作業が多く、一回あたりの仕込み量がどうしても少なくなってしまう第一蒸溜所。将来の原酒確保のために、また第一蒸溜所ではつくれない酒質をつくりだすためにも、2019年に第二蒸溜所を設立、生産を開始しました。原料の麦芽は外国産をメインに、国産も一部使用。設備の規模は、第一蒸溜所の最大5倍の量が仕込めるように設定されています。
第一蒸溜所と同様、粉砕した麦芽をグリストセパレーターでふるいにかける作業は手作業で行い、粉砕割合は、ハスク:グリッツ:フラワー=2:7:1に設定。第一蒸溜所とは糖化層の仕組みが異なるため、変化をつけているといいます。

第二蒸溜所の発酵槽にはフレンチオーク材を使用。「第一蒸溜所のミズナラとは棲みつく乳酸菌の種類が異なると考えており、フレーバーの変化が楽しめます」(奥山さん)

直火で蒸溜するポットスチル。窓の外の景色と相まって、思わず写真に収めたくなる迫力です。
蒸溜工程において、直火による蒸溜を行っているのが第二蒸溜所の特徴。これは、代表の肥土さんが抱いていた「60,70年代に主流だった直火による蒸溜を実現させたい」という思いが形になったものです。直火の炉内温度は約750℃と、第一のスチルの蒸気と比べて6倍近い熱さ。高温で蒸溜することで、より力強い香りが引き出されるといいます。
秩父の地の利を活かした貯蔵庫、仕入れから手掛ける制樽工場
続いて見学したのは、第1~第7まである貯蔵庫。それぞれウイスキーの種類に適した方法で貯蔵されていますが、第1~第6貯蔵庫は土の露出した地面に木のレールを敷いて樽を積み上げる「ダンネージスタイル」という伝統的な方法で貯蔵されています。夏場は40℃近く、冬場は氷点下にもなる寒暖差を利用した、秩父の風土を生かした貯蔵方法です。「自然の力で温度や湿度をコントロールしてもらうことで、熟成が深まり、ウイスキーの味をよりおいしくしてくれていると考えています」(奥山さん)

第1貯蔵庫。輸入したバーボン、シェリー、ワイン等の樽を使用。樽の種類や熟成期間によって香りの違いはさまざま。

第7貯蔵庫は一転、ラック式に積み上げられた現代的な設計。
最後に案内していただいたのは、なんと蒸溜所敷地内にある製樽工場。一部の貯蔵樽にミズナラ材を使用しており、北海道旭川市で原木を買い付けるところから、原木の割り、自然乾燥、材の焼き曲げ等の工程を自社で行っているといいます。日本のクラフトウイスキーメーカーのなかでは非常に珍しい取り組みで、スコットランドの蒸溜所から見学に訪れた方から「Amazing!」と絶賛されることもあったのだとか。まさに“Back to Tradition”を体現する、充実の蒸溜所見学を終えました。

製樽作業を行うのは秩父出身の2人の若き職人。「この技術は絶対に受け継いでいきたい」と、奥山さんも語気を強めます。
秩父から世界へ ベンチャーウイスキーの新たな挑戦
蒸溜所見学のあとは、ログハウス風の事務棟に戻って「イチローズモルト」各種のテイスティングをさせてもらいました。肥土さんが守り抜いた羽生蒸溜所の原酒と秩父蒸溜所の原酒を使用した「ダブルディスティラリーズ」や、赤ワイン樽で熟成した「ワインウッドリザーブ」など、個性豊かなラインナップが揃います。香りも“上品”、“フルーティー”、“濃密”など違いはあるものの、どれを試飲しても、思わず「おいしい!」と声が漏れてしまう出来栄え。人気の高さもうなずけます。

いずれも人気のイチローズモルト。酒販店では即完売してしまうレアな商品も。
定番商品のひとつ「イチローズ モルト&グレーン ホワイトラベル」は、秩父のモルトウイスキーをキーとして、世界5大ウイスキーであるスコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダのウイスキーを、それぞれの個性が引き立つようにバランスよくブレンド。柑橘系を思わせる爽やかな香りが鼻孔をつき、軽い飲み口とほのかな甘み、スッと抜けるような後味が魅力です。水割りやハイボールにしても香りが立ち、“イチローズモルトデビュー”にぴったりの一本です。

「イチローズ モルト&グレーン ホワイトラベル」。淡い琥珀色の液色で、ライトな飲み口です。
2025年の春には、北海道苫小牧でグレーンウイスキーの蒸溜所開業も予定しているベンチャーウイスキー。代表の肥土さんに今後の展望をうかがうと「高品質なグレーン原酒造りがまずは一つの大きな目標。また、今後モルトとグレーンの幅広い原酒を活用した製品造りを行っていきたいと思っています」と答えていただきました。伝統的なウイスキーづくりを大切にしながら新しい挑戦を続ける「イチローズモルト」は、ジャパニーズクラフトウイスキーの世界で、ますます大きな存在感を放っています。
【全国のバーテンダーの皆さんへメッセージ】
BARの皆さんに応援していただいて蒸溜所が始まりました。BARで味わったウイスキー、そして出会った人たちに憧れて集まったスタッフが、日々仕込みに邁進しています。これからも、皆さんに胸を張ってお届けできるウイスキーづくりを常に目指して参りますので、よろしくお願いいたします。(ベンチャーウイスキー代表 肥土伊知郎さん)
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