古事記にも載る日本古来の「大和橘」をメインボタニカルに 奈良の歴史が香る「橘花ジン」

会員様向け 2022.01.26

最終記事更新:2022.03.26

古都奈良で、昔ながらの街並みが残る御所(ごせ)市。瓦葺の屋根や土壁、歴史を感じる建造物が立ち並ぶ風景を眺めながら歩くと、趣のある「大和蒸溜所」の建物が見えてきました。ここは、創業300年以上の歴史を持ち、日本酒ファンからも非常に人気の高い「風の森」ブランドで知られる「油長(ゆうちょう)酒造」発のクラフトジンの蒸溜所です。

2019年、大和蒸溜所から発売された「橘花KIKKA GIN」(以下、橘花ジン)は、奈良の古来のボタニカルを贅沢に使った、歴史と新しさを感じるお酒です。どんな思いで造られたのか、ジンの誕生に携わった方々を訪ねました。

 

作り手とバーの出会いが繋いだクラフトジンづくりへの道

 

築150年ほどの古民家をリノベーションして作られた大和蒸溜所の建物。


今回お話をうかがったのは、油長酒造代表の山本長兵衛さん、大和蒸溜所所長の板床直輝さん、御所市のお隣にある桜井市で「ザ・セイリングバー」のマスターバーテンダーを務める渡邉匠さん。お三方に「橘花ジン」誕生について話をうかがうと、“出会い”というキーワードがいくつも聞こえてきました。

最初の“出会い”は、山本さんがイギリス・ロンドン留学中に訪れます。

「イギリス留学中に出会った酒ソムリエをしていた友人に連れられて、『ザ・セイリングバー』を初めて訪ねたんです。県内にこんなにおもしろいバーがあることを知らなかったですし、また、初対面ながらその友人と渡邉さんに共通の知り合いがたくさんいることがわかって驚きましたね。そうしたバー業界のワールドワイドな活躍や、垣根のないコミュニケーションってうらやましいな、と思いました」(山本さん)

 

油長酒造代表取締役、13代目当主の山本長兵衛さん。


その日、山本さんたちが座った席が偶然にもバーのジンのコーナーの前。折しも世界にクラフトジンのブームが来ており、そのタイミングで渡邉さんと出会うことになったと振り返ります。それ以来、山本さんは知人や油長酒造の従業員を連れてザ・セイリングバーへ幾度となく足を運びました。

ある日、当時社内で製造を担当していた板床さんを連れて行ったところ、新たな出会いが生まれることとなりました。

大和蒸溜所 蒸溜所長の板床直輝さん。それまで蒸留の経験はなく、橘花ジンを造るために独学で学んでいったといいます。

 

「その日はなんとなく、会社の中で次は何をしていこうかという話になって、そこから『ジンっておもしろいよね』という話が自然と出たんです。すると板床が『ジンづくりをやりたい』と言う。それなら私も彼の背中を押そうと、小さな蒸留機を買ってテストを始めたり、試作品を渡邉さんにテイスティングしてもらったり……クラフトジンを造るために動きまわりました」(山本さん)

油長酒造は「風の森」をはじめ日本酒を作り続けてきた蔵ですが、20年ほど前はリキュールやスピリッツもよく作っていたといいます。その際に蒸留酒の製造免許も取得していたこともあり、クラフトジンづくりは思った以上にスムーズに進行していきました。

 

大和当帰と大和橘、古来の奈良のボタニカル

 

一方で、クラフトジンの原料探しには少し時間を要しました。探していたのは“奈良らしいボタニカル”。原料のリサーチには渡邉さんもバーテンダーの視点からサポートしたといいます。

「ザ・セイリングバー」マスターバーテンダーの渡邉匠さん。現在は橘花ジンのブランドアンバサダーも務めています。


「ジンの香りを構成するボタニカルに個性を出すため、私も一緒に奈良県内の圃場を回りました。生産者の方と話をさせてもらったり、他の蒸留酒を作っている人に会いに行ったりもしましたね。その中のひとつに大和当帰(やまととうき)があったんです」(渡邉さん)

 

大和蒸溜所の中庭で育てている大和当帰(写真のものは観賞用で、実際のジンの原料には使われません)。


当帰はセリ科の多年草木で、“薬草のまち”として知られる奈良県宇陀市をはじめ、日本各地の薬園で栽培されています。根の部分は生薬として、補血、強壮、鎮痛、鎮静などの目的で漢方薬に使用されますが、それ以外の部分は薬効効果を持たないため使用されていませんでした。葉はセロリのような独特の香りがあり、最近ではハーブとして料理等への活用が期待されています。

「試験的に、まず大和当帰の葉のみでジンを作ってみました。香りが個性的なのでインパクトはありましたが、万人受けする味にはなりませんでしたね。もっと爽やかな柑橘系の香りが欲しいなと思って調べていたときに、大和橘(やまとたちばな)というボタニカルを育てている団体があると知り、会いに行きました」(板床さん)

 

毎年11~12月の期間にしか収穫されない、希少な大和橘。


板床さんが見つけたのは、2011年から活動している「なら橘プロジェクト」。日本古来の柑橘であり、絶滅危惧種にもなっている大和橘の復興を目指し、橘の木の植樹、育成、収穫、食品や製油などへの活用など、さまざまな取り組みを行っている団体です。

「古事記や万葉集にも登場するほど歴史のある柑橘ですが、奈良県内でもあまり知名度はなく、私もそれまで名前すら知りませんでした。鈴なりに実るので『子宝に恵まれる』、葉が常緑なので『不老長寿』など、縁起のいい神聖なものとして捉えられてきたそうです」(板床さん)

天理市にある大和橘の畑。取材に訪れた日は強い風が吹きつけていましたが、たわわに実った橘が落ちることはなく、生命力の強さを感じました。

 

「最近は美容関係の業界からも大和橘について問い合わせが多いですよ」と話す、なら橘プロジェクト推進協議会 会長 城健治さん。


爽やかな香りを持つ大和橘の魅力を知り、メインボタニカルに置くことを決意。大和当帰はアクセントとして少量加えることとなりました。

 

素材の香りをすべて引き出す蒸溜方法


ジンに使用するのは、大和橘の皮、ジュニパーベリー、大和当帰の葉のみ。大和橘は生産者の方から蒸溜所に届けられた後、板床さんが一つ一つ手作業で皮をむき、冷凍保存しているそうです。

原料の処理から蒸溜、調整、瓶詰まで、作業は板床さん一人ですべて行っています。


ベースとなるライススピリッツに、3つの原料をまとめて数日間漬け込むことで香り成分やオイルを抽出します。抽出し終わった原料は一度取り出し、穴が空いたバスケットに入れて、下からアルコール蒸気を当てて蒸し上げる「ヴェイパーインフュージョン」という方法でさらに香りを抽出。浸漬時に出る香り、蒸し上げるときに出る香り、同じ柑橘でも抽出できる香りが異なり、その2つの方法を合わせることで香り成分をすべて取り切り、より豊かな香りのジンにすることができるといいます。

「抽出後すぐは味が荒いので、最低2週間は寝かせます。爽やかな香りになってきたな、と感じたらブレンド。同じボタニカルでも獲れた木によって特徴が違うので、自分の官能のみで調整しています」(板床さん)

左側にあるのが浸漬用の蒸留機、右側がヴェイパーインフュージョン製法の蒸留機です。

 

浸漬の様子。大和橘が原料としてふんだんに使われていることがわかります。


瓶詰めの前に行うのが、アルコール度数の調整です。橘花ジンは59%という高アルコール度数ですが、蒸留液はおよそ75%に近い度数なので、油長酒造の日本酒に使うのと同じ仕込み水を使って調整します。仕込み水は地下100メートルほどの場所から引いている、硬度250度近い超硬水。ミネラルが多く含まれる硬水はボタニカルのエキスを引き出しづらいため、浸漬や蒸溜の際は軟水を使用するそうです。 

 

大和橘の華やかな香りがインパクト抜群

 

完成した橘花ジンを試飲してみましょう。コンプラ瓶(江戸時代に醤油の輸出に使われた陶製の瓶)を模した白いガラス瓶がなんともレトロモダンな雰囲気。特殊な青い色のインクは、大和蒸溜所の建物が江戸時代に藍染め屋として営業していたことに由来しており、半年ほどかけてこの色を表現できたといいます。

「一つ一つインクの垂れ具合も違って、量産品だけど手作りのような風合いが出るようにしました」と板床さん。


第一印象は、とにかく香りが強く、華やか! 希少な大和橘をふんだんに使用しているため、柑橘らしい爽やかさと甘みのある香りがしっかりと香り、思わず顔がほころびます。使用されているボタニカルの種類が少ないので、味わいは複雑さがなくシンプル。それでいて59%の高アルコールによるどっしりした飲み口も感じられます。

「飲んだ方からは、『こういうのもジンなんだ』という好意的な声が早い段階から届いていました。僕も初めて作ったジンなので、“初めてジンを飲む人がおいしいと思うもの”というコンセプトがあったんです。『風の森』のファンの人が、その延長でジンも飲んでくれて、『おいしい』と言ってくれている。この方向で作って間違いなかったんだなと思いました」(山本さん)

 

まだまだ知られていない奈良のボタニカルの魅力を伝えたい


発売から1,2年と間もないころ、イギリスで開催される競技会IWSC2020(インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション)に出品。初エントリーながら、橘花ジンは見事ブロンズを獲得します。奈良で作ったクラフトジンが海外で評価されたことに、特に渡邉さんの感激はひとしおだったそうです。

「世界にさまざまなジンがある中で、橘花ジンのアルコール度数59%というのはなかなかのインパクト。香りも立ちますよね。奈良をはじめ西日本は女酒といわれるとろんとした日本酒が多い中で、“逆にジンは骨太なお酒を作ってみては?”という話になり、蒸溜設備でできる最大度数に設定したんです。それが海外で認められたのは快挙だし、お酒としてのキャラクターも立っている。これは嬉しいことだなと思いました」(渡邉さん)




2021年6月には、大和蒸溜所から近い飛鳥地区で獲れる苺「あすかルビー」を使用した甘やかな香りの橘花ジン「朱華(はねず)」も発売されました。すでに新作の構想も出来上がりつつあるといい、「今後も奈良の脚光を浴びていないボタニカルを使用して、お酒を作れたら。皆さんの期待をいい意味で裏切るようなものを作りたい」(板床さん)と意気込んでいます。

「仕込みには、金剛山や葛城山の山々に降った水が地下水となった、この土地ならではの超硬水を使用しています。硬水は立体感があり、丸みのある水。地域の水由来の質感が出るというのも、地酒やクラフトジンの大切な要素ですね。私たちは日本酒メーカーとして、これまで日本酒のことしか知りませんでした。バーテンダーの方々と共にスピリッツ業界に取り組む中で、日本酒では出会わなかった方々とご縁ができて、ジンというお酒ができあがったことはとてもありがたいと思っています」(山本さん)

 

【全国のバーテンダーの皆さんへメッセージ】

「橘花ジンは“これが奈良の香り”といえるお酒です。ですが、お客様が飲まれるお酒というのは、私たちのジンをもとに、それぞれの地域のバーでその時々のお客様の気持ちに寄り添って作っていただくもの。どうアレンジするかはバーテンダーの皆さんにお任せしますので、ぜひ自由に楽しんでいただきたいと思います」(山本さん)

 

<&BAR × JT 「BARサポ」キャンペーン>

本記事で紹介した『橘花ジン』とその他国内3つの蒸留所のクラフトジンをあわせて応募者(先着制)無料でお届けいたします。

【キャンペーン実施主体】
&BAR運営事務局(Retty株式会社内)

【実施期間】
2022年4月1日(金)〜5月31日(火)

※新型コロナウイルス感染症などの影響により、クラフトジンの配布時期・キャンペーン開始時期などの実施期間が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

【参加対象】
東京都に店舗がある飲食店(バー業態)

■当キャンペーン及び参加方法に関する詳細はこちらをご覧ください。
BARサポキャンペーンWEBサイト~
https://campaign.andbar.net/barsapo/index.html

 

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