&BAR編集部がお送りする、連載企画「いまでや代表が語る“これからのBAR”」がスタートします。
千葉に本店を構える酒販店「IMADEYA」を運営し、アルコール業界、飲食店業界に精通する株式会社いまでや代表・小倉秀一さんにインタビューを実施。業界の現状や今後について、海外のアルコール事情、バーの店舗運営に関することまで、幅広いテーマでお話を伺いました。バーをはじめとするさまざまな飲食店・酒類メーカー・生産者と信頼関係を築いてきた、小倉社長ならではの視点で語られる“これからのBAR”の姿とは?
連載第1回目のテーマは「コロナ禍のBAR・飲食店の在り方について」です。
コロナ禍で発信されなかった「適正飲酒」という言葉
――長引くコロナ禍は、飲食業界に大きな打撃を与えています。さまざまな飲食店と長く関わってこられた小倉社長から見て、バー業界に与えたコロナ禍の影響をどのように感じていらっしゃいますか?
そもそも理解しておきたいのが、日本の飲食店文化やマーケットは異常なデフレ状態だったということです。30年前の一人当たりの宴会料金が大体5000円ぐらいで、それが30年経っても変わらず、むしろもっと安くなっている。これは世界的に見ればありえないことなんですね。デフレ化の原因のひとつが、参入障壁が低いということ。どんな方でも飲食店に参入しやすく、かつアルコール飲料の取り扱いが免許制ではない。チップもないのに、おしぼりから始まり、お冷、スタッフの笑顔。日本の素晴らしいホスピタリティのあるサービスを受けられ、安価でアルコール飲み放題を提供している。バーなどの業態は1杯ずつお酒を作り、そこに付加価値を付けて適正な価格をいただいているわけで、デフレ化がバー業界を長く苦しめてきました。

株式会社いまでや代表・小倉秀一さん。
では、それがこの2年間のコロナ禍でどう変わったか? 緊急事態宣言やまん延防止等重点措置で、営業時間の短縮や酒類提供の制限など、まず飲食店がターゲットにされました。そのときに私が残念に思ったのは、政治家の方々が「適正飲酒」という言葉を、結局誰も使ってくれなかったことです。日本には、世界にも類を見ない素晴らしい食文化があり、世界中の料理を楽しめるマーケットがあります。クオリティーの高い料理を適正価格で楽しめ、そこに脇役として花を添えるのがお酒。豊かな食生活を送るための素晴らしいサポートをしてくれる存在です。「適正飲酒を心がけるように」という言葉で政治家の方が発信してくれていたら、飲食店もそのことをきちんとお客様に伝えて、知性と理解力のある国民性を持つ日本人であれば節度を持った飲酒をしてくれるはず。その言葉を使ってくれなかったことが、この2年間で特に悔しいことのひとつです。
アフターコロナで生き残る店・淘汰される店
――コロナ禍はまだ続きそうですが、アフターコロナに向けて、飲食店での酒類提供スタイルに変化はあると思われますか?
私たちが一番危惧しているのが、生活リズムの変化。大勢での宴会がなくなり、外で食事をしても夜8時か9時にはなんとなく帰る空気になってしまい、「この後、ゆっくりバーで飲み直そう」となりづらくなりました。この習慣の戻りが遅いのは否めないですね。ですから、お店によってはオープン時間を午後4時や5時にしたり、午後10時以降の営業を思い切ってやめて、夜は1回転で終わらせる業態に徹底するとおっしゃっているところもあります。そうなるとお客様の絶対数は増えませんし、はしごせずに1店舗で帰ってしまう。そうなると、やはり1杯あたりの労働生産性が高いドリンクの商品開発・商品提供が求められていると思います。
その中で、たとえばバーのオーナー様やミクソロジストの方々の中には「じゃあ、ジャパニーズスピリッツを見直そう」と、本格焼酎をベースにしたカクテルを開発したり、日本酒をベースにした和のオーセンティックバーにトライしている方もいます。コロナ以前、日本には年間4000万人のインバウンドが訪れていましたから、今も海外の方は日本への旅行解禁を心待ちにしていて、解禁されたら年間5000万人から6000万人が訪れるのではと言われています。そこに大きなビジネスチャンスが生まれてきますので、日本のクラフト酒を使った、日本ならではのドリンク提供がより求められるようになると考えています。
――飲食店さんも蔵元さんも、コロナ禍だからこそ自分たちの提供しているものを見直してみよう、深く追求しようといった意識をされているところは多いのでしょうか?
まさに、そうですね。僕はこの2年間、通常時よりもさらに力を入れて営業に回りました。なぜかというと、やはりコロナ禍で、飲食店様の危機感が非常に高まっていたからです。予約が取れないような繁盛店はコロナ禍でも関係なくお客様は来ていましたが、そういうお店でも、今まではルーティンで店を回していけましたが、それではダメだと思うようになっていました。「さらにバージョンアップ、ステージアップして、店の個性を創造していかなければ生き残れない」と。コロナ禍で淘汰されるグループには足を踏み入れたくないという危機感が非常に増したので、私が営業に行っても興味深く話を聞いてくれました。

IMADEYAでは全国の日本酒、焼酎、ワイン、リキュールまで幅広く扱っている。
「まだ取り組んでなかった日本ワインをやってみよう」とか、オーセンティックバーで「日本のクラフトジン・クラフトウイスキーにトライしてみようか」とか、さまざまなアイデアが生まれましたね。蒸溜所とも相談を重ねたり、バーのオーナー様と日本酒の蔵元さんを見学させていただいたり、生産者の方とゆっくりお話する機会をいただきました。バーや飲食店側も研究開発に時間をあてられたので、この2年間でどんなアクションを起こしたか、自己投資をしたか・しないかでは、必然的にアフターコロナでのスタートダッシュに差が出てくるのではと思います。
――おっしゃる通り、東京オリンピック前の「これからインバウンドがたくさん来るぞ!」という熱気にあてられたままだったら、「自分たちの店や提供しているお酒はこのままでいいのか」と見つめ直すタイミングを逃したまま進んで行ったかもしれません。
そうですね。中期的に見たら、僕はここから5年ぐらいでまたインバウンドの波が押し寄せてくると考えているので、やはりそこへのアプローチは飲食店業界の方々にとって絶対に必要なことだと思っています。たとえば、私たちは率先して日本ワインのマーケット開発を行ってきたのですが、3年前まではなかなか認知が広がっていきませんでした。東京オリンピック開催が迫るにつれ、インバウンド需要を見越して日本ワインへの問い合わせが非常に増えたんです。造り手の努力もあって、フレンチやイタリアンなどのミシュラン獲得店でも「これからは日本ワインを扱わないと」という流れになっていましたね。私たちは日本のクラフト酒全般を扱っていますので、さらに洋食と日本酒のペアリングというアイデアも出てくる。ご提案の幅が広がっていったことは非常に実感できました。
流通業界に求められる “商流のクラフト化”
もう一つ、今後の流れとして強く感じているのが、これからは“商流のクラフト化”が求められるということです。バーや飲食店はそれぞれ異なるターゲットを想定されていて、お店側も「うちのお店に来るのはこういう物が好きなお客様」という分類を自然にされてきているはず。商品を卸す私たちも、今までのように全店に一斉告知してどのお店に対しても同じものをご案内する、という発想はもう頭から消していこうという話をしています。一つのメーカーさんでもいろんな商品を作っていますから、たとえば「この商品に関してはこれぐらいの単価で、かつ食事を伴ったこういう業態で売ってほしい」というメーカーさんからの要望に対し、私たちは該当する飲食店さんの情報を共有、その成果次第で「ブランディングのためにこのお店に安定供給をしましょう」といった提案をする。そういう時代に入ったと私は考えています。
――お店も飲み手も細分化されて、お酒自体も細分化されている。その間をつなげる役割を担うところが今までと同じことをやっていては、届けたい人に届かないということですね。
はい。そこに取り組んでいかなければ、私たち流通業が必要とされなくなる時代が来るという思いもあります。最近は、小さな製造元が自らSNSで発信してお酒を販売するような例をよく見るようになりましたし、もうひとつ、最近多いのはOEMですね。「幻の日本酒」「幻の焼酎」なんて宣伝文句でSNS上に流れて来て、なんだこれは?と見てみると、メーカーは全然わからない。OEMで作ったお酒の、商品の部分をクローズアップしてブランディングするというやり方ですね。ただ、そこに造り手の姿は見えません。私たちは今までそれとは真逆のことをやっていて、造り手のブランディングやマーケットの立ち位置を考えてきました。そこは今後もブレたくないですし、最終的に作り手が見えてこない商品はトップブランドにはなれないと思っています。

ただ、その中でもブランディングとして成功しているのは、「SAKE HUNDRED」の日本酒『百光(びゃっこう)』(参考:https://jp.sake100.com/)ですよね。彼らは、今まで私たちの観念になかった「日本酒1本3万円」というマーケットを生み出しました。それは彼らの素晴らしい努力によるもので、潜在ニーズがあったにもかかわらず、従来の日本酒業界はそのマーケットを開拓できていなかった。そこは蔵元さんも反省していますし、リアルに店舗を回っている私たち流通業も、大いに反省しなければいけないことです。どういうやり方が本当にいいのかはわかりませんが、新しい販売チャネルが生まれたことは事実。逆に考えれば、私たちが大事にしてきた作り手が見える蔵元さんも“1本3万円”というステージに参入できるチャンスができたということでもありますね。
――ある意味、今後に期待できる、希望がある話でもありますね。
そうですね。私たちもスピード感を持って、新しい取り組みを始めようと考えています。私たちが担当するクラフトメーカーさんは、やはり1アイテムの生産数がある程度限られています。だからこそ「こういう業態で売ってほしい、コアなファンを作ってほしい」という希望がある。手間暇はかかりますが、商流のクラフト化をはじめ、新しいことにも注力してやっていきたいと考えています。
連載第2回に続く:多様化する日本の飲酒文化、これから流行るお酒とは?
<プロフィール>
小倉秀一
(株)いまでや代表取締役社長。大学卒業後にサッポロビール(株)に就職、3年勤務した後に、家業である酒屋を継いで2代目となる。“町の酒屋さん”から国内クラフトメーカーメインの小売店にシフトし、酒販店「IMADEYA」を運営。現在は千葉、東京に計5店舗を展開し、日本酒、焼酎、ワイン(国産・インポート)等を取り扱う。販売・卸だけでなく、酒造メーカーや飲食店と積極的にコミュニケーションを取り、販売企画、提案、販売サポート、アイデア提供も行う。
