&BAR編集部がお送りする、連載企画「いまでや代表が語る“これからのBAR”」第2回目。
本連載では、千葉に本店を構える酒販店「IMADEYA」を運営し、アルコール業界、飲食店業界に精通する株式会社いまでや代表・小倉秀一さんにインタビューを実施。業界の現状や今後について、海外のアルコール事情、バーの店舗運営に関することまで、幅広いテーマでお話を伺いました。バーをはじめとするさまざまな飲食店・酒類メーカー・生産者と信頼関係を築いてきた、小倉社長ならではの視点で語られる“これからのBAR”の姿とは?
連載第2回目のテーマは「日本のアルコールトレンド予測」です。
日本の繊細な感性が活きるクラフトジン
――「これから日本で流行りそうなお酒」というテーマでお話をうかがえればと思います。お酒の嗜好も多様化が進んでいますが、小倉社長が注目している、今後トレンドになりそうなお酒はありますか?
蒸留酒でいえば、やはりクラフトジンは新しいものがどんどん出てきていますね。ジンは焼酎やウイスキーと比べて、製造から販売までのスパンが非常に短いので、蒸留所側にしてみても売上につながるという意味で経営的にもジンは強いです。いまでやでもさまざまなクラフトジンを扱っていて、私としても非常に可能性を感じています。繊細な嗅覚や味覚を持った日本の焼酎メーカーさんが作るジンは素晴らしいものがありますね。

株式会社いまでや代表・小倉秀一さん。
最近では当社も、宮崎県で『百年の孤独』などを造っている焼酎蔵の黒木本店さんと新しいクラフトジンの取り組みをしています。私たちが得意とする日本のワイナリーさんの白ワイン樽を黒木本店に送り、樽貯蔵して作ってもらったジンがあるのですが、それが驚くぐらい美味しい。非常にエレガントな複雑性のある味に仕上がりました。日本のプロダクトメーカーや生産者は優秀なので、日本古来のボタニカルを使った素晴らしいクラフトジンをどんどん作り出していくと思います。
でも、おいしいだけでは売れないのは事実。そこにあるストーリー性や、どういう立ち位置でマーケットに提案するかも求められることです。
ますます向上するジャパニーズウイスキーの市場価値
――他に、トレンドになりそうなお酒はありますか?
やはり、クラフトウイスキーですね。2021年2月に「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」が制定され、日本で採水された水を使い、日本で蒸留した原酒を、日本国内で3年以上寝かせたものしか「ジャパニーズウイスキー」と名乗れなくなりました。昨年制定され、表示の切り替えまで猶予期間はあと2年ほどありますが、現在販売されているウイスキーの多くは2年後には「ジャパニーズウイスキー」を名乗れなくなります。そうすると、「ジャパニーズウイスキー」はコスト的にも売価1本1万円前後、エイジングによってもっと上がるかもしれない。世界マーケットから見てもより価値のあるものとして受け入れられる可能性は非常に高いと考えています。
日本のウイスキーは、ニッカウヰスキーさんやサントリーさん等が取り組んできたことが認められて、すでに世界でも高い評価をいただいています。ただ、それらは100% 日本で蒸留したものではなく、輸入原酒をブレンドしていることが多い、もちろん、ウイスキー文化におけるブレンドは当たり前でまったくネガティブなことではありませんが、「ジャパニーズウイスキー」にはさらなるプレミアムラインとして期待しているところです。ただ、3年以上貯蔵するための資金を考えると、クラフトウイスキーはある程度の資本力がないと難しいという課題はあります。
――クラフトウイスキーを造っている日本の蒸留所で、注目しているところはありますか?
先ほどお話した黒木本店さんをはじめ、「小鶴」などの焼酎を造っている小正醸造(鹿児島)さんのウイスキーも高く評価されています。芋焼酎「富乃宝山」等で知られる西酒造(鹿児島)さんも、設備投資をして御岳蒸留所という素晴らしい蒸留所を建てられました。また、清酒蔵の八海山(新潟)さんも北海道のニセコに蒸留所を設立。他にも小さなクラフトウイスキーメーカーさんが続々と誕生しています。私たちがそれらの商品をカスク買い(樽買い)させていただき、素晴らしいオーセンティックバーやホテル等に売ることによって、ブランディングを伴った販売をすることが大切だと考えています。
バーテンダーにとっても大きなチャンスに
――「ジャパニーズウイスキー」の基準が制定されたことで、日本のマーケット、あるいはバーや飲食店が影響を受けるようなことはあるのでしょうか?
国内では、あまり影響はないのではないでしょうか。当然、クラフトメーカーはジャパニーズウイスキーで勝負しようとさまざまな商品を造ると思いますが、単価はどうしても上がるので、ボトル2000円前後の手に取りやすい価格帯のマーケットに参入するとは思えません。そこに入るのは輸入原酒をブレンドした商品で、大手メーカーさんがやること。マーケット全体に大きな影響を与えることはないと思います。

一方で、ジャパニーズウイスキーの市場価値が世界的に上がることは、バーの皆さんにとってはチャンスだと思います。たとえば、ベンチャーウイスキー(埼玉県)の「イチローズモルト」なんて、ロンドンでは小売価格で1本15万円というありえない値段で販売されている。すでに日本のウイスキーには「ある程度値段が高くても欲しい」というニーズがあるんです。それが日本の素晴らしいバーテンダーさんがいるオーセンティックなバーで、日本で蒸留されたジャパニーズウイスキーが飲めるとなると、1杯20ドルや30ドルだって飲みたいという海外のお客様は絶対にいると思います。
前回もお話ししたように、日本の酒類に関するマーケットは異常なデフレ状態。良いものであれば適正な価格をつけるべきです。日本の場合、ワインだけは高価格帯でも当たり前に売れていくようなマーケットが確立されていましたが、そこにようやくウイスキーが入ってきました。飲食店だけでなく店頭でも、高価格帯商品が入荷すればすぐに売れるようになっています。コロナが落ち着いてインバウンドが戻ってきたとき、1杯の労働生産額が上がるという意味でも、僕はバーテンダーさんにとってチャンスだと思っています。今後ますますクラフトウイスキーへの期待感は高まっていきそうですね。
世界的な“ノンアル化” 今後はどうなる?
――クラフトジンやウイスキーが注目されている一方で、最近では日本の大手メーカーが手掛ける低アルコールのビールなど、ノンアルコール・低アルコール商品が増えている印象があります。今後このトレンドは続いていくと思われますか?
今は世界的にノンアルコール・低アルコールの需要が高まっており、日本もローカルなノンアルコール文化は明らかに進むと思います。たとえば、日本酒の原酒といえば、昔はアルコール度数18~19度ぐらいが主流でしたが、近年の蔵元さんが作る“モダンスタイル”と呼ばれる商品は12~14度。度数を下げても味が薄っぺらくなく、甘み、酸味、さまざまな味わいの調和を考えて造られた素晴らしいものです。蒸留酒も、日本ではハイボールやサワーが人気ですよね。先ほど話したクラフトジンも、日本のものは香りが豊かなので、トニックで割るよりシンプルなソーダ割りを提案しているところも多い。アルコール耐性の弱い日本人でもおいしく飲めるお酒、あるいはノンアルコールというニーズは今後もあると思います。ただ、低アルコールビールなどはニッチな需要なので、メインにはならないでしょうね。
ビールでいえば、クラフトビールは今後も伸びると思います。今やアメリカでもバドワイザーやクアーズなどの大手メーカーのブランドより、クラフトビールのメーカーの方が多い。今後もクラフト化は進んでいくと思います。
連載第3回に続く:多くのファンが集まる理由は? BARのブランディングに必要なもの
<プロフィール>
小倉秀一
(株)いまでや代表取締役社長。大学卒業後にサッポロビール(株)に就職、3年勤務した後に、家業である酒屋を継いで2代目となる。“町の酒屋さん”から国内クラフトメーカーメインの小売店にシフトし、酒販店「IMADEYA」を運営。現在は千葉、東京に計5店舗を展開し、日本酒、焼酎、ワイン(国産・インポート)等を取り扱う。販売・卸だけでなく、酒造メーカーや飲食店と積極的にコミュニケーションを取り、販売企画、提案、販売サポート、アイデア提供も行う。
