&BAR編集部がお送りする、連載企画「いまでや代表が語る“これからのBAR”」第3回目。
本連載では、千葉に本店を構える酒販店「IMADEYA」を運営し、アルコール業界、飲食店業界に精通する株式会社いまでや代表・小倉秀一さんにインタビューを実施。業界の現状や今後について、海外のアルコール事情、バーの店舗運営に関することまで、幅広いテーマでお話を伺いました。バーをはじめとするさまざまな飲食店・酒類メーカー・生産者と信頼関係を築いてきた、小倉社長ならではの視点で語られる“これからのBAR”の姿とは?
連載第3回目のテーマは「バーのブランディング/ファンの増やし方」です。
世界に誇る日本の素晴らしいバーテンダーたち
――バーのブランディングについておうかがいしたいと思います。日本各地に数多あるバーの中でも、常に人気のあるバー、ファンがたくさんいるバーというのは、どのような特徴があるのでしょうか?
ひとつは、日本人の素晴らしい発想を活かした商品提供をしている点が挙げられます。たとえば、世界的にも高い評価を受けている「The SG Club」(東京・渋谷)代表の後閑信吾さんは、2021年10月にワインをベースにしたカクテルでペアリングを提案する「Wine CocktailBar & Restaurant『swrl.』」(渋谷)をオープンし、大きな話題になっています。ミクソロジストの第一人者である南雲主于三さんは、日本酒や焼酎などをベースに日本独自のカクテルを提案する新業態「FOLKLORE」(東京・日比谷)のオープンを予定しています。世界に誇れる素晴らしいバーテンダーさんがたくさんいらっしゃって、原料にコストをかけ、それがローアルコールやノンアルコールであってもその場の雰囲気に合ったものを提供できる。これほど繊細な仕事ができるのは、日本のバーならではだと思います。
そして、これら素晴らしいバーテンダーの方々は、皆さんご自分で勉強して新しい手法や原料を見つけていらっしゃるんです。我々サプライヤーももっと勉強して、お役に立てるようにならなければと身が引き締まる思いです。

株式会社いまでや代表・小倉秀一さん。
提供するドリンクにオリジナリティーを持たせて
――「&BAR」を活用していただいているバーのなかには、小倉社長のおっしゃるような世界的に有名なバーもあれば、地域に密着した“街なかのバー”もあると思います。バーの規模によってできることも異なると思うのですが、提供するモノ・サービスも変える必要はあるのでしょうか?
例えば、最近はよりカジュアルで親しみやすい「ネオスナック」ブームの勢いがありますよね。私も先日地方に行った際に伺いましたが、まさに原点回帰というか、地域に密着した情報交換の場になっていました。そういう店というのは、お酒のアイテム数というのはさほど求められておらず、名物となるお酒が1つでもあれば成り立ちます。たとえばそれが、手頃なサワーでもいいと思うんです。たとえば、ミシュランのビブグルマンにも選ばれているベトナム料理店「An Di」(東京・外苑前)のレモンサワーは、本格乙焼酎をベースに、広島産のレモンや和三盆を使った自家製シロップを使用して作られています。これがとてもおいしくて、多くのお客様が注文されています。サワーというのは日本の素晴らしい文化ですし、店のブランディングのために高級なお酒を使わなければいけないということはありません。それでもなぜか、ワンパターンなお店が多いのが気になります。気軽に楽しめるサワーにも、もっとお店のオリジナリティーを出していいと思いますね。
――好奇心をくすぐられるメニューがあると、お店の個性になりやすい。特別なことをしなくても、自分の手の届く範囲でできることはたくさんあるということですね。
そうですね。技術的なことをいえば、ステアの仕方一つでもテイストは変わると思いますが、そこはもう匠の世界の話。カジュアルバーであれば、もっとさまざまな取り組みに挑戦してみても良いと思いますね。黒木本店(宮崎県)代表の黒木信作さんは、焼酎やジンなどの蒸留酒を「大地の香水」と呼んでいます。いい言葉だなと思いますし、日本が誇る乙類焼酎や個性あふれるジン等を活用して、それぞれのバーでオリジナリティーのあるドリンクを提供していただきたいです。

角打ちもできるIMADEYA清澄白河店。全国から集めた個性豊かなお酒が揃います。
バーは体験を共有し、キャッチボールする場
――ファンが集まるバーについて、ホスピタリティーや店づくりなど、“モノ”以外の面ではどんなことがいえると思いますか?
バーというのは、すなわち“人”だと思います。誰かと行ったときに絶妙なタイミングで会話に入ってきたり、一人で行ったときにカウンター越しに隣の方とつないでくれたり、お酒を作る以外のそういった所作もバーテンダーの“粋”ですよね。その方がいるだけで居心地がよくなる、それはバーテンダーの方の素晴らしい人間力が発揮されているのだと思います。
僕がサッポロビールに勤めていた頃、当時の銀座エリアの担当の方に「勉強のためにいろいろなオーセンティックバーを見てみたい」とお願いして、有名なバーを回らせていただきました。そのときに訪れた、とあるバーのマスターのことはよく覚えています。私は、バーのルールを知ったかぶりしてはいけないと当時から思っていたので、その70代の白髪のマスターに素直にいろんなことを尋ねていました。店にカルヴァドス(編注:シードルから作られる蒸留酒)があり、飲んだことがなかったので「どんなお酒ですか?」と聞いたところ、「じゃあ、飲んでごらんなさい」と、ちょっとだけ飲ませてくれたんです。とても感動したことを、40年ほど経った今でも鮮明に思い出せます。バーという場所は、知らないことを教えてもらう、体験を共有させてくれる場所。ハード面も当然必要ですが、やはり“人”なんですよね。
――スナックでも、お店のママさんに会いたくて行くという方が多いですね。
そうですね。有名なママさんがいて、いくつもボトルキープが入っている、そういう店が全国のどの地域でも一軒ぐらいはあります。バーも同じで、お酒を介してコミュニティーの場を作れるバーには、必ずキーパーソンがいるのではないかと思っています。
お酒の知識だけだったら、正直な話、長年売ってきた私たちもそれなりの経験値として備えています。そこにバーという他者とのキャッチボールの場が加わることで、お互いに引き出しの中を交換しあえる。それがバーの大きな魅力だと思います。
――小倉社長はバーに行く時はどのようにお店を選んでいるのでしょうか?
初めて行くところであれば、誰かからの紹介、あるいは連れて行ってもらうことが多いですね。ホテルのバーなら一人でも気にせず入れますが、銀座のオーセンティックなバーに一人で行くのはやはり緊張しますし、もし「一見さんお断り」なんて言われたら、寂しいじゃないですか(笑)。もちろん、それぞれのお店の考えがありますからね。カジュアルなバーの気軽さもあれば、会員制なら常連のお客様たちの憩いの場として機能する、そういう運営の仕方も素晴らしいと思います。
連載第4回に続く:要チェック! クラフトジン、クラフトビールの次に来るお酒は?
<プロフィール>
小倉秀一
(株)いまでや代表取締役社長。大学卒業後にサッポロビール(株)に就職、3年勤務した後に、家業である酒屋を継いで2代目となる。“町の酒屋さん”から国内クラフトメーカーメインの小売店にシフトし、酒販店「IMADEYA」を運営。現在は千葉、東京に計5店舗を展開し、日本酒、焼酎、ワイン(国産・インポート)等を取り扱う。販売・卸だけでなく、酒造メーカーや飲食店と積極的にコミュニケーションを取り、販売企画、提案、販売サポート、アイデア提供も行う。
